シンジケートローン(協調融資)、ノンリコースローン(非遡及型融資)、LBOローンなどの契約においてしばしば登場する項目に、 「コベナンツ」というものがあります。
一言で言えば、コベナンツとは、制約条項のことです。
融資を行う際に、銀行等は守ってほしい事項を契約上に入れ込み、借主に遵守することを要求します。 例えば、モニタリングのために、決算書を毎期提出させるような情報開示に関する事項であったり、 債務者区分に影響を与えないように、純資産維持・黒字維持のような会計面での財務制限条項(財務コベナンツ)を入れたりします。
財務コベナンツの目的は何かというと、シンジケートローン等は譲渡を前提に契約を締結する場合が多く、 銀行取引約定書を締結していない場合が大多数です。 このため、銀行取引約定書のような銀行にとって有利となる、期限の利益喪失事由が存在しないことになってしまいますので、 個別に契約に定めることによって、倒産する前に資金回収を行うためにコベナンツを設定しています。
すなわち、財務コベナンツは、資金回収漏れを防ぐための、予防的な手段として用いられるもので、 倒産してから回収すると一般更生債権等としてプロラタ・パリパス(同額・同順位)になってしまうのを避けて、 他の債権者よりも先に、抜駆けして回収してしまおうというものです。
ちなみに、期限の利益喪失事由には、「当然喪失事由」と「請求喪失事由」とがあり、 「当然喪失事由」は民事再生法の申請や不当りなどです。 「請求喪失事由」は請求してはじめて期限の利益が喪失するものです。
財務コベナンツの主なものを挙げると以下のようになります。
カバレッジ・コベナンツ
インタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)
事業利益が金融費用の何倍であるか測定するものであり、金融費用の支払能力を測るための指標です。
計算式:EBITDA÷支払利息 or フリー・キャッシュ・フロー÷支払利息
デット・サービス・カバレッジ・レシオ(DCSR)
債務返済能力を示し、元利金返済額を賄うだけの、キャッシュ・フローを創出しているかを判断するための指標です。
デット・サービスの定義は契約によって異なりますが、主に、支払利息、コミットメント・フィー、 エージェント・フィー、約定弁済元本額が含まれます。
計算式:フリー・キャッシュ・フロー(デット・サービス支払前)÷デット・サービス
フィックス・チャージ・カバレッジ・レシオ
デット・サービスだけでなく、設備投資金額を含めたカバレッジを見るための指標です。
計算式:EBITDA÷(支払利息+約定弁済元本額+設備投資+税金) or (EBITDA-設備投資)÷(支払利息+約定弁済元本額)
レバレッジ・コベナンツ
レバレッジ・レシオ
事業利益に対して、どの程度の借入金の水準となっているのかを判断するための指標です。
計算式:借入金額÷EBITDA
※シニア・ローンのみを対象にしてレバレッジ・レシオを出したい場合には、 「シニア・レバレッジ・レシオ」などを設定する場合もあります。
資本勘定等
ポジティブ・ネット・ワース(Positive Networth)
純資産額をプラスに維持することを定めたものです。
黒字維持
利益(営業利益、経常利益、当期利益)を黒字に維持することを定めたものです。
設備投資
最大設備投資金額(Maximum CAPEX)
むやみに設備投資を実施するとフリー・キャッシュ・フローに影響しますので、 これを抑制するために定める指標です。

