(1)ストック・オプションと株式オプション(新株予約権)の違い
ここで、最近のストック・オプションの発行事例について紹介すると共に、ストック・オプションと株式オプション(新株予約権)のその内容を比較しながら
検討してみます。ここでは、実際の名称を出すと、対象会社の会計処理等に影響も与える可能性がありますので、数値等はすべて変更しています。
A社は、2009年6月30日にストック・オプションを付与する対象者ごとに2種類に分けて、税制適格ストック・オプションと
税制非適格ストック・オプションを同時に発行しました。
【発行要項におけるそれぞれのストック・オプションの説明】
| ・A社 2009年度第1回新株予約権(取締役を対象) 「A社 2009年度第1回新株予約権」は「株式報酬型ストック・オプション(権利行使時の払込金額を1株当たり1円とするもの)」であり、 当社株主の皆様との利害の共有化を図るとともに、企業価値の一層の増大を図ることを目的として、より業績に連動した取締役の報酬として、 割り当てるものです。 |
| ・A社 2009年度第2回新株予約権(従業員を対象) 「A社 2009年度第2回新株予約権」は「時価型ストック・オプション(権利行使時の払込金額を時価基準により決定するもの)」であり、 業績向上へのインセンティブとして、従業員に対し割り当てるものです。 |
すなわち、発行要項には、「行使価格を固定して発行価格を後で決定するタイプ」を第1回新株予約権としており、
「発行価格を無償にして行使価格を後で決定するタイプ」を第2回新株予約権としています。
第1回新株予約権は、「1円ストック・オプション」と呼ばれるものですが、税制適格ストック・オプションの定義のうち、
『払込額(行使価格)が時価以上であること』を満たさないため、税制適格ストック・オプションとはなりません。
このため、新株予約権者が無償で新株予約権を取得した場合は、取得時に課税が生じてしまいますので、
2009年8月3日付け『ストックオプション(新株予約権)の発行内容確定に関するお知らせ』において、
『取締役に対して新株予約権の払込金額の総額に相当する金銭報酬を支給することとし、この報酬の請求権と新株予約権の払込金額を相殺する。』
と記載されているように、金銭払込を行うことで、新株予約権者に課税が生じないようにしています。
「1円ストック・オプション」は最近たまに発行されていますが、税制非適格のストック・オプションは直ぐに売却しても良いことを前提に、
最近は退職金などの報酬支払として行われる場合も見られます。
第2回新株予約権は、『払込額(行使価格)が時価以上であること』を満たしているため、他の要件が税制適格ストック・オプションの要件を満たしていれば、
税制適格ストック・オプションとなり、新株予約権者に取得時には課税関係は発生しません。
第1回新株予約権の発行要項及び発行内容については、次のようになっていました。
【発行要項:第1回新株予約権の抜粋】
| 1.名称 | A社2009年度第1回新株予約権(株式報酬型) |
| 2.新株予約権の割当ての対象者及び その人数並びに割り当てる新株予約権の数 |
取締役(10人)に対し、100個を割り当てる。 |
| 3.新株予約権の目的となる株式の種類及び数 | 新株予約権1個当たりの目的である株式の数(以下「目的株式数」という)は、当社普通株式100株とする。 |
| 4.新株予約権の総数 | 100個 |
| 5.新株予約権の払込金額 | 割当日において、ブラックショールズモデルにより算出した1株当たりのオプション価格に 目的株式数を乗じた金額とする。 なお、取締役に対して新株予約権の払込金額の総額に相当する金銭報酬を支給することとし、 この報酬の請求権と新株予約権の払込金額を相殺する。 |
| 6.各新株予約権の行使に際して出資 される財産の価額又はその算定方法 |
新株予約権の行使に際してする出資の目的は金銭とし、その価額は、新株予約権の行使に際して払込みをすべき 1株当たりの金額(以下「行使価額」という)を1円とし、これに各新株予約権の目的株式数を乗じた金額とする。 |
| 7.新株予約権を行使することができる期間 | 平成21年7月1日から平成26年6月30日まで |
| 13.新株予約権の割当日 | 平成21年7月1日 |
【発行内容確定に関するお知らせ:平成21年7月1日の抜粋】
| 1.A社 2009年度第1回新株予約権(株式報酬型) ・確定した事項 新株予約権の払込金額 新株予約権1個あたり 45,100円(1株あたり 451円) 当該金額は、割当日においてブラックショールズモデルにより算出した金額であり、割り当てを受ける者に特に有利な条件となるものではない。 なお、取締役に対して新株予約権の払込金額の総額に相当する金銭報酬を支給することとし、 この報酬の請求権と新株予約権の払込金額を相殺する。 |
A社の割当日(2009年月1日)の株価は500で、5年間のボラティリティ42.3%(2004年7月1日から2009年6月30日の週次株価収益率から算定)、
3.5年間のボラティリティ35.78%(2006年1月1日から2009年6月30日の週次株価収益率から算定)を使用して評価を行うこととします。
【観測期間ごとのボラティリティの推移】
| 年数 | ボラティリティ(年率) |
| 3.5 | 35.78% |
| 5.0 | 42.30% |
A社の配当予想額は四季報から年10円/株として公表されていますので、2009年7月1日の株価終値500円を使用すると配当率は2%(10円÷500円)となります。
【A社の配当予想額】
| 決算期 | 1株あたり配当額(円) |
| 2010年3月期 | 10 |
| 2011年3月期 | 10 |
@新株予約権の評価(ブラック=ショールズ・モデル、二項モデル) :本件の新株予約権の評価に使用するパラメータは下図の通りでした。
【新株予約権評価のパラメータ】
| 評価日 | 2009年7月1日 |
| 満期 | 2014年6月30日 |
| 行使開始日 | 2009年7月1日 |
| 株価 | 500円 |
| 行使価格 | 1円 |
| 対象株価数 | 10,000株 |
| 割引率 | 0.92%(年率) |
| ボラティリティ | 44.13%(年率) |
| 配当率 | 2.00%(株価比:年率) |
ブラック=ショールズ・モデルを使用して、この新株予約権の価値を算定します。
【ブラック=ショールズ・モデルによる新株予約権の評価額】
| 1株あたりオプション価値 | 451円/株 |
| 対象株式数 | 10,000株 |
| オプション評価額 | 4,514,947円 |
二項モデルを使用して、この新株予約権の価値を算定します。
| 1株あたりオプション価値 | 498円/株 |
| 対象株式数 | 10,000株 |
| オプション評価額 | 4,981,546円 |
ここで、ブラック=ショールズ・モデルと二項モデルの評価額を比較すると、
#FF0000>−9.37%(=4,514,947÷4,981,546―1)#FF0000>の乖離が発生しています。
| もともと、この新株予約権は、行使価格が1円ですので、株価と行使価格の差額499円(株価―行使価格=500円−1円)が いつでも行使によって発生することができるはずです。 しかし、ブラック=ショールズ・モデルを利用した場合は、満期まで保有することが前提で評価を行うことになるため、 即時行使売却ができない前提で評価を行っています。 この新株予約権は、配当率が2%となっていますので、満期までの5年間に渡って希薄化が発生し、 5年間の希薄化によって株価が下落した状態で行使を行うように計算していますので、10%近い評価額の乖離が発生しているのです。 A社のリリースでは、ブラック=ショールズ・モデルで計算した評価額を新株予約権の発行価格としていますが、本来であれば、 二項モデルで計算したようなオプション価値になっていなければいけません。 このように、利用するモデルによって、オプション価値が変動する可能性があることが分かると思います。 |
Aストック・オプションの評価(ブラック=ショールズ・モデル、二項モデル
A社が発行した第2回新株予約権の発行要綱は、下記のようになっています。こちらについては、ストック・オプションとして評価を行うことにします。
【発行要項:第2回新株予約権の抜粋】
| 1.名称 | A社2009年度第2回新株予約権(時価型) |
| 2.新株予約権の割当ての対象者及び その人数並びに割り当てる新株予約権の数 |
従業員(10人)に対し、100個を割り当てる。 |
| 3.新株予約権の目的となる株式の種類及び数 | 新株予約権1個当たりの目的である株式の数(以下「目的株式数」という)は、当社普通株式100株とする。 |
| 4.新株予約権の総数 | 100個(従業員(10人)100個) |
| 5.新株予約権の払込金額 | 新株予約権と引換えの金銭の払込みはこれを要しない。 なお、割当てを受ける者に特に有利な条件となるものではない。 |
| 6.各新株予約権の行使に際して出資される 財産の価額又はその算定方法 |
新株予約権の行使に際してする出資の目的は金銭とし、 その行使価額に各新株予約権の目的株式数を乗じた金額とする。 行使価額は、割当日の属する月の前月の各日(終値のない日を除く)のジャスダック証券取引所における 当社普通株式の普通取引の終値の平均値に 1.05を乗じた金額(1円未満の端数は切上げ)又は割当日の終値(終値がない場合は、 それに先立つ直近日の終値)のいずれか高い金額とする。 |
| 7.新株予約権を行使することができる期間 | 平成23年7月1日から平成26年6月30日まで |
| 13.新株予約権の割当日 | 平成21年8月3日 |
【発行内容確定に関するお知らせ:平成21年7月1日の抜粋】
| 2.A社 2009年度第2回新株予約権(時価型) (常勤取締役及び従業員を対象) ・確定した事項 新株予約権の行使に際して出資される財産の価額 新株予約権1個あたり 50,000円(1株あたり 500円) 当該価額は、割当日の属する月の前月の各日(終値のない日を除く)のジャスダック証券取引所における当社普通株式の普通取引の 終値の平均値に1.05を乗じた金額(1円未満の端数は切り上げ)である470円と割当日の終値である500円のうち高いほうの金額により算出している。 |
ストック・オプションの評価は、「ストック・オプション等に関する会計基準(企業会計基準第8号)」および「ストック・オプション等に関する
会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第11号)」に従って評価を行っていきます。
【ストック・オプション評価に使用するパラメータ】
| 項目 | 数値 | 概要 |
| 評価日 | 2009年7月1日 | - |
| 満期 | 2014年6月30日 | - |
| 行使開始日 | 2011年7月1日 | - |
| 予想残存期間 | 3.5年 | 行使開始日から満期までの平均期間 |
| 株価 | 500円 | 評価基準日終値 |
| 行使価格 | 500円 | - |
| 対象株式数 | 10,000株 | - |
| 割引率 | 0.46%(年率) | 評価基準日における中期国債(残存3.5年)の日本証券業協会売買参考値 |
| ボラティリティ | 44.13%(年率) | 平成18年1月1日〜平成21年6月30日の週次株価から算定 |
| 配当率 | 2.00%(年率) | - |
まず、行使期間については、行使開始日(2年後)から満期(5年後)までの平均残存期間(3.5年)で評価を行います。
また使用する割引率やボラティリティの観測期間も平均残存期間である3.5年を利用して評価を行うことになります。
このような前提を置くため、通常の新株予約権の評価額と異なるオプション価値が算定されることになります。
通常の新株予約権としてブラック=ショールズ・モデルで評価を行うと、次のように計算されます。
【ブラック=ショールズ・モデルによる新株予約権の評価額】
| 1株あたりオプション価値 | 169円/株 |
| 対象株式数 | 10,000株 |
| オプション評価額 | 1,694,021円 |
これに対して、ストック・オプションとしてブラック=ショールズ・モデルと二項モデルで評価を行うと、次のように計算されます。
【ブラック=ショールズ・モデルによるストック・オプションの評価額】
| 1株あたりオプション価値 | 129円/株 |
| 対象株式数 | 10,000株 |
| オプション評価額 | 1,288,056円 |
【二項モデルによる新株予約権の評価額】
| 1株あたりオプション価値 | 135円/株 |
| 対象株式数 | 10,000株 |
| オプション評価額 | 1,345,916円 |
| 新株予約権として評価を行った場合とストック・オプションとして評価を行った場合で差が発生していますが、理由は行使期間、 ボラティリティの測定期間、割引率が異なるためです。 一般的には、行使期間が新株予約権の方が長くなるため、ストック・オプションとして評価を行うよりも、新株予約権として評価を行う方が、 算定される金額が高くなります。 また、ブラック=ショールズ・モデルと二項モデルの評価額を比較すると、―4.30%(=1,288,056÷1,345,916―1)の乖離が発生しています。 こちらは、配当による希薄化を評価モデルで考慮しているか否かによって発生する差となります。 |
(2)プレーンな株式オプション
下記のような条件の新株予約権を、G会社(予約権の発行体)が不動産ファンドであるF会社(投資家)に対して発行しようとしています。
この場合、G会社及び投資家の会計処理はどのようになるでしょうか?
【G会社発行の新株予約権の発行要項の抜粋】
| 名称 | G会社第1回新株予約権 |
| 発行会社 | G会社(JASDAQ上場) |
| 割当先 | F会社 |
| 原資産価格 | 100円 |
| 行使価格 | 100円 |
| 発行数量 | 100個(予約権1個に付き普通株式1個を付与) |
| 発行日 | 2009年9月30日 |
| 期間 | 3年 |
| ボラティリティ | 30% (3年ヒストリカル・ボラティリティ) |
| 割引率 | 0.703% (3年スワップ・レート) |
| 配当率 | 0% |
前記の前提を利用して、ブラック=ショールズ・モデルでオプション価値を算定すると、予約権1個あたり21.34円となります。
同様に、この場合は、二項モデルでオプション価値を算定した場合、予約権1個あたり21.34円となり、同じ数値になります。
払込価格が、オプション価値と等しくなければ、有利発行になってしまいますので、投資家は新株予約権を引き受けると同時に、
予約権単価×発行数量=21.34円×100個=2,134円を払い込みます。
【払込時の会計処理】
・F会社(投資家)の会計処理
| (借方) 投資有価証券(その他有価証券) 2,134 | (貸方) 現金預金 2,134 |
・G会社(発行会社)の会計処理
| (借方) 現金預金 2,134 | (貸方) 新株予約権(純資産の部) 2,134 |
新株予約権は通常、売買目的で保有することはありませんので、「その他有価証券」に区分されることになります。
その後、2010年3月末は、満期までの期間が6ヶ月少なくなり、評価をのG会社の株価が以下のようになっていたとすると、決算処理は以下のようになります。
【2010年3月末のG会社株式に関する情報】
| 原資産価格 | 90円 |
| 期間 | 2.5年 |
| ボラティリティ | 50% |
株価は下落しているものの、ボラティリティが上昇していますので、オプション価値をブラック=ショールズ・モデルで計算すると24.97円/個となり、
新株予約権全体では2,497円となります。
発行時の時価評価額2,134円と比較すると、363円(2,497円−2,134円)の時価評価益が上昇しています。
■金融商品会計基準における投資家サイドの会計処理方法
【期末時価評価に関する会計処理】
・F会社(投資家)の会計処理
| (借方) 投資有価証券(その他有価証券) 363 | (貸方) その他有価証券評価差額金(純資産の部) 363 |
・G会社(発行会社)の会計処理
会計処理なし
上記の評価益は、一時的な時価評価によって発生した決算整理処理ですので、翌期首には、戻し処理が発生します。
【期末時価評価に関する会計処理】
・F会社(投資家)の会計処理
| (借方) その他有価証券評価差額金(純資産の部) 363 | (貸方) 投資有価証券(その他有価証券) 363 |
・G会社(発行会社)の会計処理
会計処理なし
発行から1年後にG会社の株価130円となり、F会社が予約権を行使したとします。
【払込時の会計処理】
・F会社(投資家)の会計処理
| (借方) 株式(その他有価証券) 12,134 | (貸方) 現金預金 10,000 投資有価証券(その他有価証券) 2,134 |
・G会社(発行会社)の会計処理
| (借方) 現金預金 10,000 新株予約権(純資産) 2,134 |
(貸方) 資本金(純資産) 6,067 資本準備金(純資産) 6,067 |
*払込金額の50%を資本組入れして処理
(3)ストック・オプション
株式オプションについて解説しましたが、ほぼ同じ条件の新株予約権をストック・オプションとして、
G会社(予約権の発行体)が当社役職員に対して発行しようとしています。この場合、G会社及び当社役職員の会計処理はどのようになるでしょうか?
【G会社発行の新株予約権の発行要項の抜粋】
| 名称 | G会社第1回新株予約権 |
| 発行会社 | G会社(JASDAQ上場) |
| 割当先 | 当社役職員 |
| 原資産価格 | 100円 |
| 行使価格 | 100円 |
| 発行数量 | 100個(予約権1個に付き普通株式1個を付与) |
| 発行日 | 2009年9月30日 |
| 期間 | 3年(予想残存期間:2.5年) |
| 行使開始日 | 2011年9月30日 |
| ボラティリティ | 25% (2.5年ヒストリカル・ボラティリティ) |
| 割引率 | 0.46% (2.5年中期国債) |
| 配当率 | 0% |
ストック・オプションを評価する際に使用するパラメータは、新株予約権を評価する際のパラメータと異なります。
なお、上記のストック・オプションは、発行条件が税制適格となる行使開始日が記載されていませんが、ここでは便宜上、
発行時から行使が可能であったとして評価を行います。
ブラック=ショールズ・モデルでオプション価値を算定すると、予約権1個あたり16.16円となります。
同様に、この場合は、二項モデルでオプション価値を算定した場合、予約権1個あたり16.16円となり、同じ数値になります。
発行体の会計処理は下記の通りとなります。まず、従業員に対する報酬(オプション価値)は、新株予約権の行使開始時点までに費用処理していきますので、
1年間に8.08(16.16÷2)ずつ費用処理することになります。
【1年目の仕訳】
| (借方) 株式報酬費用(販管費) 8.08 | (貸方) 新株予約権(純資産) 8.08 |
【2年目の仕訳】
| (借方) 株式報酬費用(販管費) 8.08 | (貸方) 新株予約権(純資産) 8.08 |
新株予約権を行使した場合は、新株予約権の会計処理と比較して特に変わりはありません。
従業員等が取得した新株予約権を行使した場合の会計処理は下記のようになります。
【新株予約権を行使した時】
| (借方) 現金預金 100 新株予約権(純資産の部) 8.08 |
(貸方) 資本金(純資産の部) 54.04 資本準備金(純資産の部) 54.04 |
*払込金額の50%を資本組入れして処理




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