不動産投資におけるリース会計基準の影響
a)リース取引の概要
リース取引は、いわゆる賃貸借契約です。
たとえば、飲食店舗を作るときに、調理器具等をリースで借りたり、コピー機を毎月のリースで借りたりしていますが、これらは全てリース契約です。
リース契約は、一旦契約するとキャンセルできないものが多く、実際には、一括で購入する資金が不足している場合に、 毎月返済で資産を購入しているのと同じです。
これが、借入を行って資産を購入する場合は、資産として計上されることになります。 また、割賦契約で資産を購入する場合も、資産として計上されることになります。
たとえば、1億円の工場設備の資金を借入、割賦、リースそれぞれで調達した場合は、下記のように会計処理が異なってきます。
リース類似取引の会計処理の比較
形態 | 内容 | B/S計上 | P/L計上 |
---|---|---|---|
借入 | 1億円を借入れて、1億円の工場設備を購入 | 「1億円の資産」と「1億円の借入」がB/Sに計上される | 毎期減価償却費が計上される。 |
割賦 | 1億円の工場設備を3年間の分割払いで購入 | 「1億円の資産」と「1億円の未払金」がB/Sに計上される | 毎期減価償却費が計上される。 |
リース | 1億円の工場設備を3年間のリースで購入 | なし | 支払リース料が計上される。 |
これらは、同じ1億円の資金調達と工場設備の購入にも関わらず、リース契約によって取得しただけで、 B/S計上されないというのは、おかしな話です。すなわち、リース契約は、単純な資産の賃貸借契約というよりも、 資産購入資金の調達という側面の方が強いため、実質的には借入などと同じ金融取引としての性格を有しています。
リース会計基準の変更は、これらの契約による会計処理の違いが発生することは、開示上誤解を与えるとの観点から、 会計処理を金融取引として統一しようとしているものです。
b)会計処理の変更
リース取引は典型的なオフバランス取引です。ただし、リース取引については、古くから国際的な会計基準と乖離が生じており、 会計上は議論が続いていました。国際会計基準へのコンバージェンス(統合)へ向けて、2008年3月30日にリース会計基準が改正され、 従来のリース取引と同様の会計処理が認められなくなりました。
大きな変更点としては、ファイナンス・リースは原則オンバランス処理(売買としてB/Sに計上する処理)になるという点です。 「ファイナンス・リース」という用語にあまり馴染みの無い方のために、少し解説しておくと、ファイナンス・リースは、 ほとんど買ったのと同じようなリース取引です。
会計上は、「価格」と「解約できるか?」という点で判断するのですが、大まかにいうと、以下のようになります。
- ほとんど買ったのと同じ価格:現金購入価格の90%を超える
- ほとんど解約不能と同じ:耐用年数の75%を経過するまでキャンセルできない
従来は、ファイナンス・リースであっても、「所有権移転外ファイナンス・リース」と呼ばれる最終的に所有権が移らない取引であれば、 オンバランスしなくても良かったのです。 この点、ファイナンス・リースは、分割払いで買ったのと同じ取引ですので、ファイナンス取引(金融取引)として、 お金を借りて買っているのと同じ処理をしなければいけないと考えられていました。
諸外国では、ファイナンス・リースは売買処理でしたので、日本だけ独自の会計基準(賃貸借処理)が長期間続いていたのですが、 IFRSへのコンバージェンスという黒船の到来によって、ついに日本も白旗を挙げることになりました。
ご参考情報
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【書籍情報】
書籍名:金融マンのための不動産ファイナンス講座
著者:山下章太
出版社:中央経済社
発行日:2011年3月25日
税込価格:3,150円
A5判/300頁
ISBN978-4-502-68490-6
内容(「BOOK」データベースより)
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出版社リンクページ:
『金融マンのための不動産ファイナンス講座』
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