不動産流動化と連結の範囲
一般的な、連結財務諸表を作成する際に基準とする連結の範囲、持分法の範囲は下記のようになります。
一般的な連結・持分法の範囲
基本的には議決権の50%を超えて保有している場合や実質的な支配が行われていると判断される場合には、 子会社として連結財務諸表に合算されることになります。
そもそもの話ですが、特に不動産の場合は、連結することを企業が嫌がるケースが多くあります。理由は、 連結されると投資利益率(ROAなど)が下がりますので、企業の利益率が下がるからです。
たとえば、図表Xのように総資産が120の会社があり、連結対象外のSPC(総資産、負債が100)が連結されてしまうと、 連結上の総資産が220(120+100)になってしまいますので、ROAが極端に下落します。
不動産は、金額が大きいため、連結されるかどうかによって、企業の投資利回りに大きく影響を及ぼすことになります。
連結と投資利益率の関係
不動産の開発を行う際に、連結されないSPCを利用できれば、投資利回りを下げることなく、不動産の開発を行うことができます。
新聞等で、ゼネコンにおける開発型SPCの連結の問題が記事になることがありますが、これは開発型SPCを連結されるかどうかによって、
ゼネコンの投資利益率に大きな影響が出ることから、議論になっているわけです。
なお、先ほど原則的な日本における連結の範囲の判定方法を紹介しましたが、不動産などの場合は、「SPC特例」というものを利用して、 連結対象外のSPCとして扱っている場合もあります。
SPC特例は、財務諸表等規則第8条7項における扱いなのですが、まず、対象となるSPCは、 「連結財務諸表制度における子会社及び関係会社の範囲の見直しに係る具体的な取扱い」で以下のように定められています。
@資産の流動化に関する法律2条3項に規定する特定目的会社
A事業内容の変更が制限されている@と同様の事業を営む事業体
すなわち、TMKまたはTMKと同様のSPCを指しています。
次に、下記の2つの要件を満たしたSPCについては、子会社等に該当しない旨を規定しています。
@適正な価格で譲り受けた資産から生ずる収益を当該特別目的会社が発行する証券の所有者に享受させることを目的として設立されていること
A当該特別目的会社の事業がその目的に従って適切に遂行されていること
すなわち、SPCの目的が資産流化に限定されていて、SPCから発生する投資利益が証券の投資家に分配される場合は、 子会社には該当しないことになります。
この「SPC特例」を利用すれば、連結対象となる子会社には該当しないため、投資利回りを下げることなく、不動産の流動化を行うことができるのです。
ただし、平成21年2月6日に企業会計基準委員会(ASBJ)から公開された「連結財務諸表における特別目的会社の 取扱い等に関する論点の整理」をはじめとした公開草案において、IFRSへのコンバージェンスの過程で消滅していく可能性の高い 取扱いであることが記載されていることから、「SPC特例」は、永続的に利用できるものではないと思われます。
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【書籍情報】
書籍名:金融マンのための不動産ファイナンス講座
著者:山下章太
出版社:中央経済社
発行日:2011年3月25日
税込価格:3,150円
A5判/300頁
ISBN978-4-502-68490-6
内容(「BOOK」データベースより)
不動産をファイナンスとして利用するための基礎知識や、担保価値を把握するための手法、不動産を利用したファイナンスに関するさまざまな特徴を、難解な部分を極力排除したうえで、事例を交えながら解説。
出版社リンクページ:
『金融マンのための不動産ファイナンス講座』
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