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不動産ファイナンス(融資取引)

項目

6. 不動産ファイナンスとコベナンツ

入力者 山下章太 更新日 20110919

不動産ファイナンスとコベナンツ

通常の融資契約の場合、銀行との融資に関する基本契約である「銀行取引約定書」と 「金銭消費貸借契約書」をセットで融資を実行します。

銀行取引約定書は、銀行との基本契約を記載したものですが、期限の利益喪失に関す る記載があり、もし何かあれば、担保権を実行して回収することができます。

ただし、シンジケートローンのようなタイプの融資契約は、銀行のみではなく、ノン バンク等を含めた貸付人が存在し、譲渡を前提に契約を締結する場合が多いため、銀行 取引約定書を締結していない場合があります。ノンバンクは銀行ではないため、銀行取 引約定書というものが存在しません。

このため、コベナンツを設定しておかなければ、銀行取引約定書のような銀行にとって 有利となる、期限の利益喪失事由が存在しないことになってしまいます。倒産してから回 収すると一般更生債権等としてプロラタ・パリパス(同順位・残高比例分配)になってしまいます ので、コベナンツは資金回収漏れを防ぐための、予防的な手段として用いられます。回収 不能となりそうな場合は、他の債権者よりも先に回収してしまおうというものです。

すなわち、コベナンツは、債務者の信用力が悪化したことを即座に判断し、回収を行う ための予防線を張っておくという役割があります。

コベナンツの種類とその設定の目的

コベナンツには、遵守事項としての報告義務も含まれますので、いろんなものが含まれます。 ここでは、財務面に限定して財務コベナンツの説明を行いますが、不動産ファイナンスに利用 されるものに限定せず、広くファイナンスで利用されている財務コベナンツについて記載します。

主な財務コベナンツは以下のようになりますが、ファイナンスの方法に応じて、利用する財 務コベナンツを選択していきます。

@カバレッジ・コベナンツ

デット・サービス・カバレッジ・レシオ(DCSR)

<内容>

元利金返済額(デット・サービス)を賄うだけの、キャッシュ・フローを創出しているかを 判断するための指標です。デット・サービスの定義は契約によって異なりますが、主に、支払 利息、手数料、約定弁済元本額が含まれます。

不動産のみを対象とするノンリコースローンでは、不動産から発生するキャッシュ・フロー から元利金支払を行わなければなりませんので、融資返済を行うことが可能かどうかを判断す る必要があります。このため、不動産から発生するキャッシュ・フローが元利金支払額の何倍 かを判断する指標として、DSCRが利用されます。

また、不動産ファイナンスの場合は、設備投資による支出も前提に借入金の返済能力を判断 する必要がありますので、下記の計算式では、CAPEXを控除して記載していますが、理屈的には 不動産ファイナンスの考え方に合致していると思います。

<計算式>

デット・サービス・カバレッジ・レシオ(DCSR)
=ネット・キャッシュ・フロー(デット・サービス支払前)÷デット・サービスネット・キャッシュ・フロー
=賃貸収入―運営費用(減価償却費除く)―CAPEXデット・サービス
=年間返済元金+年間返済利息+手数料

インタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)

<内容>

事業利益が金融費用(支払利息など)の何倍であるか測定するものであり、金融費用の支払能 力を測るための指標です。

一般的な会社の場合、短期的に借入や返済を行うことを前提とした、運転資金融資を行う場合 もあり、必ずしも返済を前提に融資をしないケースも存在します。不動産のみを対象としたノン リコースローンのように、借入金を返済することを前提としたファイナンスの場合は、あまり意 味の無い指標ですが、年間返済額がほとんど発生せず、利息支払のみを対象とするような場合に は、有効な財務状態の判断指標と言えるかもしれません。

<計算式>

ICR=EBITDA(又は、NCF)÷支払利息

不動産ファイナンスの場合は、

EBITDA=賃貸収入―運営費用(減価償却費除く)

NCF=賃貸収入―運営費用(減価償却費除く)―CAPEX

となります。

Aレバレッジ・コベナンツ

ローン・トゥー・バリュー(LTV)

<内容>

不動産の物件価値に対して、どの程度の借入水準となっているのかを判断するための指標です。 不動産ノンリコースローンでは、最終的に物件を売却して借入金を返済することになりますので、 物件の時価がどの程度であるかというのは重要な判断指標になります。

特に、不動産ファイナンスでは、不動産から回収することを前提とするため、 不動産価値が融資額のどれくらいの割合を占めるのかということが重要となることから、重要視される概念です。

<計算式>

LTV=物件時価評価額÷借入金額

レバレッジ・レシオ

<内容>

EBITDAに対して、どの程度の借入水準となっているのかを判断するための指標です。大雑把に 何年間で借入を返済できる能力を有しているかを判断している指標だと思ってください。

不動産ファイナンスの場合は、法人向け融資と比較して、その年数は長くなりますので、 レバレッジレシオで判断せずに、LTVやDSCRのみで判断することも多くあります。

<計算式>

レバレッジ・レシオ=借入金額÷EBITDA

EBITDA=賃貸収入―運営費用(減価償却費除く)

B資本勘定、黒字維持等

これらの指標は、銀行の自己査定や格付において、債務超過(資産よりも負債の方が大きい 状態。純資産額マイナスの状態)や赤字を計上すると、債務者区分や格付が悪化する可能性があ ります。このような状況を避けるため、あらかじめ赤字計上を制限したり、純資産をプラスに維 持するように財務コベナンツとして設定するケースがあります。こちらは、そのままですので、 説明や計算式は省略します。

C設備投資制限

不動産を継続的に利用し、収益を上げるためには、設備投資(CAPEX)は必ず必要になります。 ただし、過剰な設備投資を行うと、借入金の返済のためのキャッシュ・フローが不足したり、運 営に支障がでる可能性も存在します。

このため、むやみな設備投資により、想定しているキャッシュ・フローに影響を与えないよう に、あらかじめ設備投資金額に上限を設定したり、一定金額以上の設備投資を行う際に貸出人の 承諾を要するように設定したりして、財務コベナンツとして設ける場合があります。

最大設備投資金額(Maximum CAPEX)

<内容>

むやみに設備投資を実施するとフリー・キャッシュ・フローに影響しますので、 これを抑制 するために定める指標です。

コベナンツの計算例

ここでは、事例を使ってコベナンツの計算をしてみましょう。

港キャピタルが購入を予定している代官山レジデンスは、現在借入 利率は年率3.3%、CAP RATEは5%として評価されています。

代官山レジデンスの収入・費用や借入金額から算定される前提は以 下の通りとなっていました。

<前提>

前提

<融資条件>

融資条件

融資には、アレンジャーフィー、アップフロントフィーといった実行時手数料1.5%が含 まれていますので、期間が5年間として単純に計算すると1.5%÷5年=0.3%/年の負担をして いることとなります。ここでの計算では、融資実行手数料を年間按分した金利を使用して、 金利を3.3%での融資ということで計算しています。

この前提で代官山レジデンスの収支計画を計算すると、図表Aのようになりました。

【図表A:代官山レジデンスの計画】

代官山レジデンスの計画

ここで、物件取得時点でのDSCRとLTVが計算されていますが、融資契約の財務コベナンツは、 融資実行時点での数値をもとに決定していきます。

ここで、丸の内銀行の融資契約書に記載される財務コベナンツは図表Bのように決定されました。

【図表B:融資契約に記載された財務コベナンツ】

DSCRは、以下の数値以上を維持する。

DSCR

LTVは、以下の数値以下を維持する。

LTV

ここで、DSCRは、高いほど良いため、財務コベナンツ以上の数値を維持しなければなりません。 LTVは、低いほど良いため、財務コベナンツ以下の数値を維持しなければなりません。

実際に、融資実行後は、財務コベナンツのテストを実施していきます。

1年目の実績は、賃料収入が想定したよりも5%悪く712,500千円(750,000×95%) となりました。また、市場環境が悪くなり、キャップレートは、5.0%から5.3%に上昇 したとします。

当初の計画値と実績値を比較すると、図表Cとなります。ここで、DSCRとLTVは融資 契約に記載された財務コベナンツの数値としています。

【図表C:計画値と実績値の乖離】

計画値と実績値の乖離

この結果、融資実行当初よりも収益力、不動産評価額は下落しましたが、図表Dのよう な財務コベナンツの比較結果、抵触はないと判断されました。

【図表D:財務コベナンツのテスト結果】

計画値と実績値の乖離

財務コベナンツは、融資対象の返済能力の悪化を判断するためには有効なもののですが、あまりに 極端な数値にしてしまうと、少しの収益性の悪化や市場環境の変化によって、財務コベナンツに抵触し てしまうことになりかねません。

港キャピタルの高木さんと丸の内銀行の岡本次長の話し合いに出てきましたが、DSCRが丸の内銀行 が設定しようとした1.2倍以上であったとすれば、実績値が1.14倍ですので、財務コベナンツに抵触し ていることになります。

財務コベナンツは、融資契約上は、期限の利益喪失事由のうち、請求喪失事由(銀行が請求しては じめてき期限の利益を喪失する)とされていますので、コベナンツに抵触したからといって、必ずしも、 デフォルトが発生(期限の利益が喪失)した訳ではありません。

ただ、実際に物件処分等の手間を考慮すると、そのまま物件を運営してもらった方がメリットの有 る場合もありますので、あまり極端なコベナンツを設定せずに、ある程度余裕を持って設定することが 多いと思います。




ご参考情報

弊社代表の山下が執筆した不動産ファイナンスの入門書(金融マンのための不動産ファイナンス講座)が、全国書店でお買い求めいただけます。

【書籍情報】
書籍名:金融マンのための不動産ファイナンス講座
著者:山下章太
出版社:中央経済社
発行日:2011年3月25日
税込価格:3,150円
A5判/300頁
ISBN978-4-502-68490-6

内容(「BOOK」データベースより)
不動産をファイナンスとして利用するための基礎知識や、担保価値を把握するための手法、不動産を利用したファイナンスに関するさまざまな特徴を、難解な部分を極力排除したうえで、事例を交えながら解説。

出版社リンクページ:
金融マンのための不動産ファイナンス講座

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